コユビの話し。

アロンのギブス生活が始まって2週間が過ぎた。
利き手が使えないというのは不便ですねぇ。

ところで、小指の骨が折れてから、つまり兄貴とけんかした日から1週間後まで、病院に行かなかったアロン。
家族の誰もが、まさか骨折しているとは思わなかったのだ。
だって何度「痛くない?」と聞いても、「そんなに痛くない。」と言っていたので。本人が。
せいぜいつき指だろうとタカをくくって、グリグリとマッサージしたり、指を引っ張ってみたりしていたのだ。
折れていたと言うのにねぇ。今考えると可愛そうな事をした。

そして「何かおかしいよね」と思い始め、知り合いのドクターのクリニックへ。
指を見た、骨専門ではない先生、一目で、「これはほぼ確実に、折れてますよ。」

えぇぇぇっ!じゃ、どうなるんですか?

I don't know。僕は骨専門の医師じゃないから。

レントゲンを撮って、今すぐ骨専門の先生の予約を取ってくれるという。

そしてまた別の病院で、骨専門の先生に診てもらったのが翌日。

この先生。
折れた状況の問診も触診も何もなく。

前日撮って私が持参したレントゲンの写真を見て。

「うん。折れてる。」

「じゃ、どういう処置をしていただけるんですか?」

ワイヤーで固定して1ヶ月ほど、右手は使えなくなるでしょう。

はぁ、そうですか。じゃ、それは出来るだけ早めにした方がいいんですよね?もうすでに1週間経ってしまったし。

いやいや、早めに言ってもね、たかが1週間で骨はつながるもんじゃないから、そんなに急ぐ事はない。

え。そうなんですか。are you sure?

それに、今言った手術は、正直言ってやってもやらなくてもいいんだよ。どうせ骨は放っておいてもつながるし。

えーっ。そうなんですか。やってもやらなくても、って・・・。でもあの、まだ14歳だから手も大きくなって、成長するわけですよね?これからも真っ直ぐ、ちゃんと伸びていきます?あとから指が使いづらくなったりとか・・・。

ないない。大丈夫。


大丈夫・・・。って。あの、本人、テニスとかやってるんですけどね。

大丈夫。出来ますよ。

出来ますって・・・。いつ頃から・・・。

もう明日からやっちゃって大丈夫。

えーっ。そうなんですか。Are you sure?

うんうん。大丈夫。普通に曲げたりマッサージして大丈夫。

えー。あのでも、出来ればしないほうがいいですよね。ちゃんとつながるまでは。




こんな感じの会話が続いたのです。まるで手術を嫌がる医者に、お願いだから手術してくださいと懇願するような。

何の処置もしなくても良い、テニスも翌日からやりなさいと医師から言われて返す言葉もなかったよ。

それで上のような、誘導尋問のような、変な会話がしつこく続き、医師はしょうがないと言う感じで、「じゃ、レントゲン、ここでもう一度撮ってみましょう。」という。

腑に落ちない気持ちでいっぱいのまま、言われるとおり部屋を移ってレントゲンを撮る。
撮った写真をパソコンのモニター上で見ている先生。
モニターをためつすがめつ、コンパスのような角度を測る定規のようなものをモニターに当てたり。
そして側面からモニターを覗き込んだりしているのである。
吹き出しそうになるのを我慢する。

3Dの立体画面じゃないから、側面からモニターを覗き込むって、思いっきり変だよね?
側面から見たって、写真の奥行きが見えるわけでもないし。

私の中でさっきから渦巻いていた言葉が口から出そうになる。

「ちょっと~。大丈夫ですか先生??」


そして先生、さっきとは微妙に立場が変化し、「ま、折れた部分が40度ぐらいだったら手術は要らないんだけどね、60度ぐらいあるから。ま。手術しましょ。」

と尻すぼみにごちょごちょとつぶやく。

だから。手術、した方がいいと、先生は思うわけですね?

うんうん。ま、そういう事ね。

で、今、その手術をしていただけるんですか?


!!ア、手術はここでは出来ないんです。CHCの手術室に行って貰う事になります。

!!絶句。


今まで待合室で散々待たされてやっと入ってきた診察室では「指は折れているけど放っておけば治る」と言われたり、「やっぱり手術」と言われたり。

挙句の果てに、ここでは出来ない。

あの、じゃ、CHCにはこの手術をしっかり出来る先生がいるんですね?

くく。それは僕が行ってやります。

!!あ。先生が!

素っ頓狂な声を出してしまった。

お互い目を見詰め合ったまま、しばし絶句。


気、気まずい。


・・・。で、いつなら大丈夫なんでしょう。

うーんそうだな。明日。

明日。大丈夫です。

イヤちょっと待てよ。今日の明日じゃ、心の準備もあるだろうから、うーんそうだな。金曜日辺りにしようか。

いーえ。やるからには明日がいいです。明日にしてください。

ふむ。明日か・・・。じゃ、明日にしよう。すでに一週間経ってるし、な。

イヤイヤ、渋々という感じがアリアリで、自分で自分の背中を押しているというふうに見える。
それにさっきは、たかが1週間で簡単に骨は癒えるものではないと言ったのに~。

あの、先生。この手術、自信ありますよね?これと同じような手術、以前にした事、ありますか?真っ直ぐに骨がくっつくように、ちゃんと手術してもらえますよね?私たちは、もう心の準備はできていますから。先生は?どうですか?Are you ready?

こういう質問は、日本語だったら絶対に出来ない質問だとは思うけれど、英語なら案外言える。
医者には、納得するまで何でも質問してもよいという雰囲気が出来上がっているというのもあるし、この先生があまりにも、頼りなかったと言うのもあるし。こんな質問も受け入れてもらえそうな、人のよさそうなおじさん先生だったのもあるし。私が図々しいというのも、ある。

先生の返事は、

yeah...

やっぱり頼りないのである。目はそらしたままだし。




こんなふうにして、選択の余地はない以上、覚悟を決め、手術の予約を「強引に」とりつけ、翌日、CHCの受付で落ち合う事にした。
そして驚くなかれ。小指の骨折に、サイパンでは(アメリカでもそうなんでしょうか?)点滴で一定の間、「眠らせる」のです。
これを全身麻酔というのかわからないけれど、make him sleepと言う言葉は、何だかとっても恐ろしい響きを持って私に伝わるのです。

小指の骨折。ワイヤーを入れる。
当然、片手に注射か何かで局所麻酔でチャッチャっと終わるものかと思っていたら、手術室では着ているものを全部脱いで手術着=ガウンに着替え、心拍を図るモニターにつながれ、腕には点滴。

麻酔については、骨の先生とは別の麻酔専門の先生が親切に説明してくれたけど。

やっぱりそれでもmake him sleepという言葉は私にはとっても恐ろしい言葉に聞こえる。




まだギブスはとれていないけれど、「手術」はとにかく終わった。

前述の先生、私とのやり取りの間に言ってくれたのだけれど、手術室には、15分で1200ドルの医療費がかかるのだそうだ。当然、患者が負担する。

!!!で、手術にはどれぐらいの時間がかかるんですか?

1時間か1時間半ぐらいだね。

!!!15分で1200ドルだから1時間で・・・。あぁぁぁ。計算さえ出来ない。クラクラクラ~。

あの、保険でどれぐらいカバーされるのか、今すぐ調べてください。

隣にいた、「先生の秘書」に頼む。
アメリカの医療保険制度は日本のそれと全く異なり、医療保険費もバカ高いうえに、診療、治療内容によって保険がきくものときかないものが細かく分けられている。

すぐ調べてくださいとはいったものの、例えばこの治療に保険は効きませんと言われたところで、じゃ、骨は折れたまま放っておきますというわけにはいかない。どのみち、手術は受ける事になるのだ。
それに午後5時を回っていて今、保険会社に問い合わせる事は出来ないと言う。

手術室に行かなければいけないのかしらん。ここでやっちゃ、だめなの?

↑これは私のつぶやき。

費用は全額、一旦保険会社に請求されるそうで、あとから請求書が送られて来るそうだ。
make him sleep も恐ろしかったけど、これも恐ろしい。

と言うわけで、ワイヤーを外して見るまでは何とも言えないアロンの小指。
今彼は、マニャガハ島のキャンプに行っている。残念ながら、当然ながら泳げない。
でも、毎年恒例の、校長先生が一人一人に焼いてくれるステーキと、ベークポテト、プラスティックのワイングラスに注がれるアップルサイダーで祝う、キャンプ初日の毎年恒例の「儀式」を楽しみに、今朝、意気揚々と出かけていった。

たかが小指、されど小指。アロンの大事な小指なのです。

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ガウンに着替え、ドキドキのアロン。

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点滴の管につながれ、これから手術室へ移動する事になっている。

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手術が終わり、まだ朦朧としているアロン。
手術後に対面したときにはまだアロンは「目覚めて」いなくて、呼びかけにうっすらと目を開けたときには心底ほっとした。滅多にしない兄弟げんかで、まさかこんな一大事になるとは。

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